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大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)2062号 判決 1984年6月15日

控訴人 北原陽子

被控訴人 国

代理人 森下康弘 大友宏之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

(控訴人)

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、金八万円、及びこれに対する昭和五五年九月五日から支払済まで年五パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  右2につき仮執行宣言。

(被控訴人)

主文と同旨。

二  当事者の主張

次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1  債務者にとつて、自己破産申立時は困窮の最も甚しい時であることが多いから、この時点において手続費用の仮支弁を受けることに意義がある。のちに返済せねばならぬことは、破産申立時において仮支弁を不必要とする理由とはならない。

2  破産法一四〇条は、自己破産申立人の資力にかかわりなく、全申立人に対し、費用を必要的に仮支弁することを定めたものと解すべきであるのに、原判決は右仮支弁を裁量的なものと解釈し直している。

3  原判決は、本来は第二次的、補完的であるべき法律扶助を国庫仮支弁よりも優先させているが、法律扶助が与えられそうだからといつて国庫仮支弁を拒否することは許されない。

4  破産法一四〇条の必要的仮支弁制度の下にあつては、自己破産申立人の手続費用の予納は、申立人が進んでこれを申し出たときに限り許されるが、すべての申立人に対し、これを慫慂依頼するようなことは許されない。

三  証拠<略>

理由

一  当裁判所も控訴人の請求は失当と判断するが、その理由は次に付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一四枚目裏八行目の「申立人に対し」の次に「原則として」と加え、一五枚目表一一行目の「本件訴提起」から同最終行の「はなく、」までを削除し、一八枚目裏六行目の「予約」を「予納」と改め、二一枚目裏七行目の「思われる」の次に「(現に、右裁判所で同じ昭和五五年に仮支弁がされた例がある)」と加える。

2  <証拠略>によれば、破産手続費用仮支弁のための予算は毎年五〇〇〇万円を超える額が計上されて来たが、現実には各地方裁判所が国庫仮支弁を行うことは少ないため、最高裁判所は予め予算を各地方裁判所に配付することはせず、各裁判所からの上申を待つて各地方裁判所に予算を示達する方法がとられて来たこと、大阪地方裁判所では破産手続費用の国庫仮支弁を全く行わなかつたわけではなく、事情によつてはこれを行つたことがあり、昭和五五年度においても同裁判所において複数の事件においてその仮支弁がされたことが認められる。

3  引用の原判決及び右認定のとおり、破産申立代理人は、第一次的には費用の国庫仮支弁を求めているものの、法律扶助協会からの借入、予納をする意思もあることを明示しており、同協会からの借入、予納も容易、迅速になされた等の本件事案の下では、裁判所書記官において費用の予納を求めた行為をもつて違法と断ずることはできない。

4  破産法一四〇条は、控訴人の主張するとおり、債務者が破産申立人である場合には、必要的に、その手続費用は国庫において仮支弁することを定めたものであるが、そのことは、費用を予納できる申立人に対し、任意にこれを予納するように求めることまでも禁止する趣旨のものではない。

控訴人は、原判決が破産法一四〇条の仮支弁を裁量的なものと解釈し直していると批難する。しかし、原判決は、裁判所の裁量によつては、さし当り、申立人に手続費用の予納を慫慂依頼し、これに対する申立人の対応を俟つて手続費用につき国庫からの仮支弁についての決定をする取扱をしても違法でないと判示しているのであつて、裁判所がその裁量によつて手続費用の仮支弁を全く拒否できるとしている訳ではないから、控訴人の批難は原判決を正解しないものであつて理由がない。

5  控訴人は、原判決は、本来は第二次的、補完的であるべき法律扶助を国庫仮支弁よりも優先させるものであるから違法であると主張する。しかし、法律扶助と破産手続費用仮支弁の何れがまず適用されるべきかは、法律扶助協会と国との間では問題となるとしても、控訴人(自己破産申立人)と被控訴人(国)との間の本件損害賠償の問題の判断にあたつては、直接の関係を有するものではない。控訴人が法律扶助を受けて予納したことにより問題とするような不利益を受けたとは認められず、むしろ、破産手続が進行して免責決定がなされたときには、少なくとも控訴人個人にとつては、借入予納によつた方が国庫仮支弁によつた方より有利といえることからすると、裁判所書記官が申立代理人の(第二次的な)申出のとおりに、法律扶助協会からの借入を前提とする予納を求めたとしても、それを違法視することはできないし、また控訴人においてそのように求められたことにより精神的損害があつたとすることもできない。

6  破産手続費用国庫仮支弁のための予算が右のとおりであること、その予算が予め各地方裁判所には配付されずに、上申を待つて配付することとしているため、仮支弁まである程度の時間を要することは違法と断ずることができない。

二  そうすると、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九八条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田次郎 広岡保 井関正裕)

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